「赤き死の仮面」(ポー)

何かを暗示しているように思えてならない

「赤き死の仮面」(ポー/巽孝之訳)
(「黒猫・アッシャー家の崩壊」)
 新潮文庫

「黒猫・アッシャー家の崩壊」新潮文庫

赤死病が蔓延した王国では、
臣民の大半が病死する。
国王は残った臣下や
女性を引き連れて
城砦の奥に立てこもり、
疫病が入り込まないよう
厳重に通路を封じる。
城外で病が猛威を
振るうのをよそに、
城内は饗宴にふけり続ける…。

全世界で新型コロナウイルスが
蔓延している中で
本作品を取り上げるのは
ためらいがあるのですが、
前回取り上げたポーの作品の中で、
私が最も恐怖を感じたのが本作品です。
何が何だかわからないうちに、
城内のすべての人間が
死に絶えるのですから。

この赤死病はもちろん、
黒死病(=ペスト)をもとにした
架空の死病です。
でも、発症してからわずか30分で
全身から血を吹いて死ぬというのは
かなり凶暴なウイルスです。
パニック映画に登場するウイルスよりも
凶悪です。
古くは邦画の「復活の日」
洋画では「カサンドラ・クロス」
近年では「フェーズ6」の病原菌も
真っ青です(どちらも観ていませんが)。

そうしたウイルスが
絶対に入り込まないように
厳重に封鎖された城内は、いわば
安全地帯・聖域にあたるわけです。
だから城内の人間は安心して
舞踏三昧を続けることができたのです。

ところが、それから半年も経ったある日、
深夜まで続いた仮面舞踏会に、
赤死病を模した衣装をまとった
曲者が現れます。
参会者がその人物の仮装を
剥ぎ取ってみると、そこには…。

仮装を剥ぎ取った中には、
実体がなかったのです。
まず国王が真っ先に息絶え、
やがてすべてが死滅していくのです。

本作品も、学生時代に読んだときには
超一級のホラー小説に思え、
一人の夜に思い出せば
身体に震えがくるほどでした。

でも、何度か読み返した今は、
これが何かを暗示しているように
思えてならないのです。
しっかり隔離したはずなのに、
どこからか入り込んで、
やがて死を迎える。
私は放射能汚染を連想してしまって
仕方ありません。
国の指導者が
「アンダー・コントロール」と発信し、
みんなが「これで大丈夫」と思い込み、
気が付いたらそれは
すぐ身近なところまで忍び込んでいた、
などとならなければいいのですが…。

いや、そんな不吉なことは考えないで、
ポーの小説の怖さを堪能しましょう。

(2020.3.22)

Arek SochaによるPixabayからの画像

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